赤い靴



カフェの明るい電灯に照らされたフランソワーズの横顔にはいつしか深い翳りが差していた。

(一晩眠ったら少しは気持ちが落ち着いているかしら――

そうであってほしい。でないと私は――
フランソワーズがそう思って俯きかけたその時、彼女が座っているテーブルのすぐそばのガラスが、外側からコツコツと叩かれた。

考え事をしていたせいで最初は気づかなかったが、すぐにまたコツコツと叩かれ、フランソワーズは何気なく視線をそちらに向けた。
そして、ガラスのすぐ向こうに、イギリスにいるはずの“彼”が自分に向かって小さく手を振っている姿を見つけ、フランソワーズは呆気に取られて目を見開いた。頬杖をついていた手から思わず顔を上げ、目の前の人物を驚きに満ちた目で見つめる。
しばらくは声も出なかった。

――ジョー!」

ようやく自分に気づいたフランソワーズに、ジョーが瞳に微笑を浮かべて小さく笑いかけた。
そして、そっちに行くから、という風な仕草をすると、すぐに目の前から消えてしまった。
フランソワーズは暗い気持ちで沈んでいたことも忘れ、カフェの入り口に向かって通りを歩いていく彼の翻るコートの端をガラス越しに呆然と目で追っていた。

 









バレエで大役に抜擢され、役に打ち込みながらも、思い悩むフランソワーズ・・・。
彼女の気持ちが痛いほど伝わってきます。
そして、フランソワーズを見つけて、思わず笑顔になるジョー・・・。
フランソワーズを救えるのはジョーだけなんだろうなあ、きっと・・・。

ほんとに胸に迫るものがあって、読んだ瞬間、絵が描きたくなったんです。
もうちょっと画力があると、この感動をもっと伝えられるのですが・・・・・・