空、瞳色

 子供じゃ嫌なんだ、子供じゃ
 いつまでも子供扱いされて可愛がられているだけじゃ嫌なんだ

 

 その人はいつも彼の傍にいる。

 「パトロクロス、鍛錬はおろそかにしてなかっただろうな」

 珍しく機嫌良そうにアキレスが帰って来た。きっと今回の戦にはオデュッセウスが参謀として参加していたんだ。彼がいると無駄なくスムーズに戦が終わるからアキレスは大体機嫌良く帰って来る。
 いや、それは不機嫌にならない理由にしかならないな。きっとオデュッセウスの存在そのものがアキレスを上機嫌にさせるんだ。

 「ちゃんとやってたってば! それよりも言うことがあるだろ、アキレス!」

 俺を戦には出したがらないくせに、剣の鍛錬をサボることは許さない。アキレスは矛盾している。

 「あぁ、そうだったな。ただいま、パトロクロス」
 「おかえり、アキレス!」

 しっかり抱擁して迎える。アキレスの肩越しから見える、彼。アキレスが笑うと彼も少し笑っていてくれる。嬉しい。

 「怪我はないみたいだね、さっすが」

 ぱんぱんとアキレスの腕や肩を叩きながら無傷であることを確かめる。実際のところ、擦り傷やあざくらいならあるんだけど、そんなの、戦の中では怪我の内に入らない。そうやっていつだったかアキレスが笑ったからそういうことにしてる。
 顔を見上げてみたら、アキレスの笑顔がちょっとだけ、柔らかいものになってた。きっと俺の予想は合ってる。

 「オデュッセウスがいたからな」

 ほらね。おっと、得意な気分になったのが顔に出てたかな、アキレスが不思議そうにこっちを見てる。
 あーあー、彼が笑ってる! 小さいけど、声出して笑ってる! やった! 何かすっごく嬉しい! 笑い声にアキレスも気付いて振り向いた。

 「何だエウドロス、どうした?」

 聞かれた彼は俺の方を困ったように見た。彼が笑ったのは、俺の考えてたことが判ったからなんだ! どうしよう、嬉しい。アキレスまでこっちを見る。ちょこっと首を傾げて見せた。

 「エウドロスだって笑うことくらいあるでしょ」
 「あぁ、うん、そうなんだが。いやそうじゃなく……まぁ良いか。エウドロス、行くぞ」

 ついっと身を翻して行ってしまう。

 「えー、もう行っちゃうの? せっかくなんだからゆっくりしていきなよ」

 彼も一緒に。とは口に出さず。アキレスがちらりと振り向いて苦笑した。俺の思ったことなんて欠片も判っちゃいない。アキレスは俺のことを年の離れた弟みたいに思ってるから、わがままを笑っただけなんだ。
 アキレスが立ち止まってしまったために、身動きが取れなくなってしまった彼がアキレスを仰ぎ見ている。俺の方を向いてくれれば良いのに。

 「ゆっくりはしていけないんだ。お前の顔を見るために来ただけだからな。また落ち着いたら来るよ」
 「判った。それまでは『良い子』で待ってる」

 またアキレスが笑った。良いよ、しばらくは良い子のパトロクロスでいてあげる。けど、いつかは戦に出るんだ、彼みたいに、アキレスの横で戦いたい。
 今度こそ、アキレスは出て行ってしまった。ふと、彼が、アキレスについてそのまま行ってしまうと思っていた彼が、俺の方を向いた。

 空色の瞳が俺を映す。

 ふわりと笑ってアキレスの後を追ってしまう。子供のいたずらを笑うみたいにして彼が笑った。子供扱いされるのは嫌なんだけど、そりゃもう嫌なんだけど。
 どうしよう、嬉しい。彼が、笑った。俺を見て、俺に笑顔を向けてくれた! 今日初めてアキレス越しでなく俺を見た! あの、きれいな空色に、直接俺が映った。

 

 もうしばらくは子供で良いかもしれない
 こんなふんわかした幸せはきっと子供の内だけだから
 けどでも!
 いつか大人として彼の前に立つんだ
 アキレスのおまけじゃない、一人のパトロクロスっていう戦士として 


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木馬はこのまま無節操に突っ走るつもりなんでしょうか。
どういうわけなんだかパトエウ。
ていうかパト→エウ。お得意の一方通行。
はんなりアキオデ込み。
次があるのかどうかは判りませんが、
書けたら良いなって思うだけ思ってます。
パトエウ好きなので布教したい。

write 160814 tama



パトロクロスって、かわいいです・・・♪
このお話を読んで、パトエウもいいかも、と思ってしまいました(笑)
それにしても、パトロクロスは、こうやって、ず〜っと、“早く一人前になりたい”って思っていたんだろうなあ。
でもその結果が・・・・・・・・・
(れこ)