怒りの女神(メネシス)

〜皇帝の平和〜



げ。
 振り返るとユリアの夫が、部屋の前を音もなく通りすぎるところだった。
ゲルマニア遠征から一時ローマに戻っているのだが、夫婦の会話は一切ないという噂だ。
 なあおいティベリウス。何か言ったらどうだ。せめて傷ついた顔するとか。
 挑発は沈黙で報われた。
両者の間に漂うひんやりした空気は、けして修正のきかないことを雄弁に語っていた。










 わはは。なんで、こんなシーンかな・・・(笑)
でも、いかにもティベリウス、って感じの登場のしかたが、意外に好きだったりするんですよね〜。この話の主役はユルスとユリアですが、私的には常に主役はティベリウスなもんで(笑)、どうしても、そういう描き方になってしまいますね〜。手前がティベリウス、奥の二人がユリアとユルスです。ユルスは、この話での語り手です。
 ユルス・アントニウス。そう、あの、クレオパトラと共に、ローマに(というかオクタヴィアヌスに)立ち向かって敗れ自害した、マルクス・アントニウスの息子です。彼はこの後ユリアとの不義などのために失脚、自害したとか。


 上記の引用だけでは状況が分からない方もおられるかと思うので、補足。このシーンの直前の、ユルスとユリアの会話です。

 「我慢してたけど、浮気してやる。もうやってられない」
 「まあ、たまにはいいんじゃね?」
  そろそろそれくらいは許されるだろ。
 あのティベリウス相手にお前はよくやったよ、と褒めてやりたいくらいだ。
 「ま、相手は選べよな」
 「そうね。好き勝手にさせてもらうわ!」

この直後、夫君のご登場、というわけです(笑)。
他にも、ユリアのティベリウス評がもう、おっかしいのなんのって・・・!
 『やってられないわよ、あんなつまんない男! 
 毎回手順が同じで飽きたから、私が教えてやったわよ!
 今までの男の中で、一番ヘタクソ!』
もう、大爆笑でゴザイマス!!思わず二人の“夫婦生活”を想像したくなりました(笑)。・・・私に画力があれば、描いてみたいですけどねえ!

 ・・・とかいうと、何だか軽い話に感じられるかもしれませんが、実は重い話です。この話を読むまでは、無理やり離婚・結婚させられたティベリウスだけが不憫でなりませんでしたが・・・読んでみて、ああそうか、ユリアのほうも辛かったのか、と初めて気づかされました。ユリアの浮気癖は、アグリッパと結婚していた際からのものですから、別にティベリウスに冷たくあしらわれたせいではありません。よって、その点に同情の余地はないのですが・・・。(=ティベリウス弁護!)でも、父親からは自分の意志に反して次々と夫をあてがわれ、子を産むことだけを求められ・・・そして夫とは、自分がいくら求めても心を通わすこともできない・・・そんな彼女は、ほんとに辛く孤独な状況であったのでしょう。彼女はローマの王女、ともいえる立場でありながら、決して幸せではないのです・・・。


 以下マイ設定ですが・・・
 ティベリウスはおそらく、家にいてもつまらないでしょうから、図書館かどこかに行って戻ってきたところ。私的外出なので、トガではなくマント着用。(トガが描きにくいんです・・・なので無理やり設定です!)
 ユリアの身に着けている装飾品は、ティベリウスからの贈り物。一応ティベリウスも、ちゃんと妻にいろいろ贈っていたらしい、という記述を見かけたので、それはありかな、と。愛はなかったにしても、最初はちゃんと、妻として遇していたと思うんですよね。・・・それをけなげに身に着けているユリア、ってのは、私の希望ですが。


 それから・・・言い訳など。
 ほんとは、もうちょっと違うイメージだったんですけどねえ。やっぱり画力がついていきません・・・。ティベリウスの表情も・・・思ったようにいきませんでしたねえ。もっと、冷たい無表情な感じを出したかったんですけど・・。横顔のラインも、なんか“平たい顔族”(『テルマエ・ロマエ(ヤマザキマリ)』より・笑)みたいになっちゃったし。ユリアのほうはもっと怒りを表したかったのですが、これが限界でした。そして・・・一番困ったのはユルス。男性の顔の描き分けがほんとに苦手で・・・。
 あと・・・状況としては、二人はもう少し部屋の中のほうにいるはずなんですが・・・その距離感をあらわすことができませんでした。残念・・・。 



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2010.4.18